2016年の8月に公開され、ママ起業家の間で大きな話題になった「ママ大 福十訓」。
いうまでもなく、電通の中興の祖といわれる吉田秀雄氏が1951年に作った「電通鬼十則」をベースにしています。
ママ大 福十訓
ママ起業家総研 主任研究員の富田剛史です。
まさか2016年の秋に、あの電通新入社員過労自殺の労災認定があり、11月には強制捜査、その後社長の引責辞任にまで発展することになるとは思いもよりませんでした。
そしてそのニュースによって「鬼十則」が世間の注目を浴び、その中で「鬼十則」をベースにした「福十訓」がより多くの人の気持ちに深く入っていったことは、何かのめぐり合わせかもしれません。
ここで改めて、「電通鬼十則」の方を見てみましょう。
電通鬼十則
1. 仕事は自ら創るべきで、与えられるべきでない。 2. 仕事とは、先手先手と働き掛けていくことで、受け身でやるものではない。 3. 大きな仕事と取り組め、小さな仕事はおのれを小さくする。 4. 難しい仕事を狙え、そしてこれを成し遂げるところに進歩がある。 5. 取り組んだら放すな、殺されても放すな、目的完遂までは……。 6. 周囲を引きずり回せ、引きずるのと引きずられるのとでは、永い間に天地のひらきができる。 7. 計画を持て、長期の計画を持っていれば、忍耐と工夫と、そして正しい努力と希望が生まれる。 8. 自信を持て、自信がないから君の仕事には、迫力も粘りも、そして厚味すらがない。 9. 頭は常に全回転、八方に気を配って、一分の隙もあってはならぬ、サービスとはそのようなものだ。 10. 摩擦を怖れるな、摩擦は進歩の母、積極の肥料だ、でないと君は卑屈未練になる。
モーレツですよね。
戦後復興期の日本のビジネスマンが、焼け跡から世界を目指す気迫と決意と一種の高揚感が感じられます。
ママ大 福十訓と電通 鬼十則の違いに、
男女の考え方・価値観・役割の違いが現れている
この「鬼十則」、普遍的な行動指針といっていい考え方もたくさん含まれていると思いますし、だからこそ「ママ大 福十訓」のベースとさせていただきました。
しかし、時代の変化によってかつてのような輝きを失っている部分もあるとは思います。
それは何でしょう?
右肩上がりの発展幻想です。
得られたら、もっともっとと求め続ける無限の欲望です。
「鬼十則」のイメージでは、<仕事とは相手を打ち負かして勝つこと>という感じがします。もっと大きく、もっと早く、もっと遠くへ!
何のために仕事をするのか、お客さんとどんな関係を築き大切にしていくのか、仲間とどんなチームを作っていくのか・・・そういうことは置き去りにして、とにかく大きな仕事へ!もっと大きな仕事へ!
あの過労自殺事件の末に、ついに電通マンの手帳から「鬼十則」は消えたようです。
しかし、もっと大きく、もっと早く、もっと遠くへ!の考え方は、今も男性社会には色濃く残っているのではないでしょうか。
それが悪いというわけではありません。そういう気迫で戦い勝つビジネスマンもいないと、グローバル化した国際経済社会で日本はどんどん力を失うでしょう。
ただ、それとは違う価値観で「仕事」を考え、「人生」を捉え、誰かに打ち勝つためではなく、愛されるために何かの「価値」を生み出そうという人もたくさん出てきています。
女性はそもそもそういう性なのではないでしょうか。
ニキ・ド・サンファルというフェミニズム活動で有名なフランスのアーティストが50年も前に指摘しています。
「世界は男性の競争思考に疲れ切っている。男性自身も女性的な感覚をもっと見直さないと不幸だ」というようなことをインタビューで答えています。
「仕事」をお金をもらうことと捉え、お金をもらわぬことは「仕事じゃない」と考える人が多いものですが、そんなことはありません。「仕事」はお金が生まれるずっと前からあったんですから。
いい「仕事」をすることによって、誰かに喜ばれ、本人の人生も豊かになったという事例は、お金とは関係なく太古の昔からあったと想像できますよね。
そんなことを思いながら、「ママ大 福十訓」と「電通鬼十則」を読み比べてみてください。
それは良いと悪いではなく、男と女、外と内、戦う性と育む性との違いであるのだと思います。
経済右肩上がりの時代が過ぎ去り、また女性の社会進出が進んだこの時代に、以前は男性的な価値観がほとんどだった「仕事」という分野で、女性的な価値観の重要性が増しているのは事実なのではないでしょうか。